きれいだ、と思った。

 細く小さな手の平は、冬の冷たい水であかぎれていたけれども。

 小さな傷がいくつも、赤い筋から皮膚のその下の肉をのぞかせていたけれども。

 冷たくなった小さな手を自分の太くはないくせに節のゴツゴツした両手で包み込 んで温めながら、そう思った。

 だから、きれいだと素直にそう告げたら、やっぱりあの少し困ったような表情を されて、

 「ありがとうございます」

 と、納得の言っていないような声でそう言われた。

 本当なのに。

 菊は、あまりそういうことを信じてくれない。

 「本当なんだけど」

 瞳をのぞき込みながら再度告げても、やっぱり曖昧な微笑を返された。

 「菊…信じてない」

 少し膨れながら軽くねめ付ければ、小さな音でだって…と言う声。

 「こんなかさかさで、傷も傷跡もいっぱいあって…きれいなんかじゃないですよ 」

 寂しいそうな声。

 確かに、細くて白くて爪も肌も傷一つなく整えられた長い指も綺麗だとは思う。

 きっと、菊のいうきれいな手っていうのはそういうものなのだろう。

 でも、それは違う。

 菊は勘違いをしてる。

 それも綺麗だけど、俺にとってはこの手の中に包まれた菊の両手の方がずっとき れいだ。

 「だってこれは、菊ががんばってがんばって自分を支えてきた手だから」

 だから、きれいだと思う。

 美しいと思う。

 それは、ある種の感動のようなものかもしれない。

 自分には分からないくらいの長い年月を生きてきた、菊の小さな両手。

 俺の三分の二くらいしかないんじゃないかって思うけど、それは俺よりもずっと

 ずっと大きくて。

 この小さな手で支えてきたからこそ、菊はここにあるのだ。

 余りに愛おしくて指の先に軽くキスをしたら、真っ赤になって怒られた。

 

 なんでだろう。