「・・・・・っ!!」

 

 

 こんなに、心臓が跳ねるほどの衝撃を感じたのはいつ振りだろう。

 やばい・・・と、背中を冷や汗が流れ落ちる。

 どくんどくんと、鼓動が体の中心で大きく鳴るのを感じごくりとつばを飲み込む。

 なんで・・・なんで、あの人がこんなところにっ!

 「こっち!」

 杏里の手を引いてそこから逃げ出す。

 尋常ではないものと関わらないようにする一般人のように、暴力という純粋な恐怖から逃げ出すように。

 しかし、帝人にとって恐怖の対象は暴力などではなく・・・。

 偶然なんて、それが運命なんてのは信じたくなかった。

 金色の化け物のような男。

 平和島静雄と、再会するなんてこと。

 

 

 

 

 杏里の背中を見送りその姿が視界から消えてなくなると、帝人は大きく肩を落とした。

 もちろんそれは、先ほどまでの杏里のと会話が原因ではない。

 突如目の前に現れた、金と黒と白の竜巻のような存在のせいだった。

 (まさか、平和島静雄っていうのがあの人のことだとは思わなかった)

 正臣に言われた時に、ちらりとも思い浮かばなかった。

 だって、帝人にとってあの人との記憶は遠い昔の封印されたもので、もう二度と開く予定などなかったのだから。

 なのに。

 (せっかく紀田くんのいる街なのになんで)

 しかも、こんなに早く出会わなくてもいいじゃないか。

 (気付かれた・・・だろうか?)

 もし、気付かれていたとしたらこれ以上ないほどやっかいだ。

 ため息のひとつではもちろんすまないほど、面倒なことになるのは分かりきっている。

 ずいぶん昔の、しかも数日の付き合いではあるが帝人は静雄の性格を十分理解していた。

 理由もなく、ことを大きくするのだ。

 (逃げただなんて知ったら・・・確実に怒る)

 それに、帝人は恐怖するでもなくただ長い長いため息をついた。

 そんなことになったら、めんどくさいな、と。

 先ほどの、尋常ではない静雄の破壊力を目の当たりにしても、静雄を怒らせるということが問題ではないのだと帝人は思う。

 そんなこと、『些細なこと』なのだ。

 (けど・・・まてよ)

 静雄の反応よりも、しかし帝人の中に浮かんだのは一縷の光明だった。

 いや、さっきはとっさに逃げたけどあんな昔のガキのことを覚えてる人じゃあないんじゃないのか?

 (そうだよ!)

 暗く落ち込んでいた帝人の顔が少しだけ明るくなる。

 それに、あっちは臨也とかいうこれまた関わりあいたくないような人に気をとられていたんだから自分に気付くわけがない。

 うん、そうだ。その通りだ、と帝人は自分の考えに納得した。

 もしかして、そうならば何の問題もないんじゃないか?

 自分は普通で生きていくんだ。この街で、普通の高校生として。

 ならば、あの人に関わることなんてない。いくら同じ街だからってそうそう・・・

 静雄に関われば、平穏な生活が送れないことくらい分かりきっている。

 帝人は穏やかな生活が送りたいのだ。誰にも邪魔されない、当たり前の普通の人としての生活が。

 だから、自分の考えに満足していた帝人は、背後から近づくひょろりと縦に長い影に気付くことはなかった。たとえ気付いていたとしても、逃げ切れることはなかったであろうけれども。

 がしっと後ろから後頭部を掴まれる。

 下手をすれば握りつぶされそうな圧力。唐突に背後に現れたその存在に、ぎしり、と帝人の体が固まった。

 こめかみから流れ落ちた冷や汗は、きっと気のせいではないだろう。

 まさかまさかまさかまさか・・・っ!

 「よぉ、帝人。久しぶりだってのに挨拶なしに脱兎とか、ちょーっと不義理じゃないか?」

 

 

 

 ・・・最悪だ