その男は、タイプで分けて言うならば今時の女性が好みそうな顔立ちの男だった。優しげで、母性本能をくすぐる少しだけ気の弱そうなそぶりと、整った顔立ち。女性のわがままも、しょうがないななんて言いながら許してくれそうなそんな雰囲気を持つ男だった。  

 画面に向かう、その狂気を宿した瞳の色さえなかったら。  

 「おもしろい」  

 一人きりの部屋で、男は歌うようにつぶやいた。  

 窓の外はすでに暗いが、しかしその眼下に輝く光の洪水は見ているものの目を焼いていく。  

 「実におもしろいよ」  

 男が眺めていたのは、ネットを扱う人間ならば誰もが知るような巨大掲示板の、その中に埋もれた板の一つだった。  

 文字がほとんどを占めるその簡易な作りのページを読んでいるのかわからないスピードでスクロールさせながら男は笑みを深める。  

 「なんておもしろい子だろうね」  

 ぴたりと、男はスクロールを止めた。  

 「ねぇ、竜ヶ峰帝人くん」  

 男は、一人の少年の名前を呼ぶ。  

 「これほどまでの手腕を持ちながら、君の興味はただ一点にしか向いていない」  

 板の内容は、今はメディアにあがらない有名人の話題を取りざたすありふれたものだった。  

 そこには周期のように必ずあがる名前がある。  

 ライラ、と呼ばれた子供だった。   

 その子供がメディアにでていたのはとても短い間だったのに、人々に忘れられないインパクトを与えて消えた奇跡の子供。  

 だから未だにファンの多いその子供の名前が挙がるのは、さして意外でもないだろう。  

 けれども何故か、その熱狂に反してライラの名前は板に上がってもさして広がることなく鎮静化していく。  

 それはライラへの関心が低いからではない。  

 臨也は、パソコンの画面を見つめながら目を細める。  

 誰かが・・・そう、意図的に操作しているからだ。  

 「しかもそれは執着ではない。あの幻のような子供の姿を追い求める輩は五万といるけれども、君の行動はまるでライラという存在の痕跡を消そうとしているようだ」  

 竜ヶ峰帝人。  

 先日、高校生になったばかりの少年。  

 それが、臨也の見つけた名前だった。  

 興味を持つように見せて、しかし最後にはライラへの興味を巧みに他者へとすり替える。複数のIDでまるで他人のように見せかけているやりとりは、しかし裏を探ればたった一人のものだった。  

 そこへたどり着いたのは、ほんの偶然だ。本来ならば誰も・・・臨也だって気がつかないであろう巧妙な手口。  

 それはよくある自演のようにも見える。しかし注目すべきなのはそれによって、そこにあった流れがまるで本来そうであったかのようにライラから消えていくことだった。  

 「それでも、君とあの子供のつながりを示すものも何もない」  

 決して、楽なことではないはずだ。  

 ライラの情報を引き当て、それにすべて干渉し人々の記憶から削除していく作業。  

 ライラと竜ヶ峰帝人の間に何か強い因縁でもないかぎり、必要性のない一見愉快犯にも見える無駄な行動。  

 いないはずの人間の後を消すことに、何の意味がある?  

 「君の本当の意図が見えない」  

 けれど、だからこそ臨也の関心を引いてやまないのだ。  

 「君がそこまで固執するライラって、いったいどんな人間なんだろうね?」  

 画面に向かってほほえんだその顔は、まるで恋をしているようなそんな穏やかな表情であった。