愛してはいけない
愛してはいけない
愛してはいけない
だって自分は、決して愛されることはないのだから
ざわめきと共に、先ほどまで気疲れのする会議をようやく終えた各国が長時間座り続けて凝り固まった腰を上げ始める。
その中で、菊も几帳面に書類をそろえながらふぅ、とため息をついた
今日は、大丈夫だっただろうか。迂闊なことなどいわなかっただろうか。
他国に眉をひそめられることはなかっただろうか。
あの人の、望むとおりにできただろうか。
ぐるぐると、自己反省が頭の中を駆け巡るが答えは出ない。
『誰か』からの言葉をもらわなければ終わることのない、メビウスの輪。
立ち上がりかけながらも、視線は自然とあの人の様子を伺う
周りに挨拶を投げかけながら彼がまっすぐに向かった先は、彼の窮地の人物
「あぁ!アーサー、帰るのか!?」
「げっ!アルフレッド・・・」
声を掛けられた相手は、条件反射のように瞬時に眉間にしわを寄せた
嫌そうにしながらも話を聞いてあげるアーサーさん
あの人に見限られたくせに、あの人に刃を向けられたくせに
それでも向けられる笑顔を、当然のように受け止める
本当にいらないのならば、拒絶をすればいいのに
内心、嬉しいと思っているから
彼の気を引きたいと思っているから
わざとそんな態度をとるのでしょう?
なんて、傲慢
私のほうが、彼を求めているというのに
-------ソンナコト考エチャイケマセン-------
あぁ・・だめだ
彼は、一度はともに戦った仲間だというのに
こんな私に、今もよくしてくれるというのに
そんな彼に悋気を抱くだなんて、自分はなんて狭量なんだろうか
醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い
ミニクイミニクイミニクイミニクイミニクイミニクイ
こんな心では、あの人の近くにすらいられなくなってしまう
消さなくては、隠さなくては
あの人に気づかれないように
怨んではいけない
怨んではいけない
怨んではいけない
「今日も、ずいぶんと熱い視線を送るね」
背後から突如掛けられた言葉に、驚いたように振り向く
「・・・フランシスさん」
本当は、振り返る前から分かっていた
そこに誰がいるかなんてこと
彼特有の、絡みつくような強い香水のにおい
「君が彼以外が目に入らないように、彼は自分のことしか目に映ってない。そんなこと、とうに知っているんだろう?」
毎度のように告げられる説教じみた文句に、にこりと笑みを浮かべた
意味なんて好きに受け取ればいい
あなたに、そんなこと言われる筋合いはない
あの人がお嫌いなのでしょう?だから、悪心を私の心に植えつけようとするのでしょう?
私よりも、あの人の近くにいるくせに
私が欲しい立場を持っているくせに
私があなたの立場なら、あの人に信頼され、必要とされ、永遠に共にいることを約束できるだろうに
あなたはそれをしない
なんて、高慢
-------ダメダ-------
だめだ・・だめだ だめだ だめだ だめだ だめだ だめだ だめだ だめだ だめだ だめだだめだ だめだ・・・・
憎んではいけない
憎んではいけない
憎んではいけない
彼が私に向かなくても
どれほど、彼に尽くそうが
見返りなんか求めてはいけない
だって・・それが、愛情でしょう?
そう思って、菊はうっそりと笑った
それは、とてもとても昏い微笑
愛してはいけない
怨んではいけない
憎んではいけない
求めてはいけない
期待してはいけない
・・・・・まるでそれは、呪詛のように