「日本ーっ、いいかげんにでてきなさい」

 「いーやぁーでーすーっ!」

 毎度の攻防に、扉の向こうで上司のため息聞こえた。

 日本が閉じこもっている部屋の扉は、天の岩戸効果で日本によって内側からしか開けることはできなくなっている。天照大御神の能力はだてではないことはこの何ヶ月にも及ぶ攻防が物語っていた。

 そこから引きずり出すには本人の説得しかないわけだが、言葉をこらしても、日本はがんとして首を縦に振らない。

 (だって・・あんな・・・)

 部屋に敷かれた布団の中丸まりながら、日本は入れ替わり立ち替わり自国を訪れる鮮やかな髪の彼らの姿を思い出す。

 人を強引に連れ出そうとする年若いアメリカや、きらきらとした外見でフェロモンを振りまくフランス、何もかも進んでいて足下にも及ばないイギリスに何を考えているのか分からないロシアなどなど。扉を開けばそこには列強が見上げるばかりの図体を揃えて立っている。それは日本にとって果てしない恐怖だった。そんな中でやっていけるわけなどない。

 「おかえりくださいと、お伝えくださいーっ!」

 先日は不覚だった。猫に釣られ顔を出したとたん、結局フランスと対面させられたのだ。・・・猫だけお通しくださいと言ったのに。

 今回は、何としてでも開くもんか!

 がんとしても扉を開く気配のない日本に、上司ははぁともう一度大きなため息をもらして独り言のようにつぶやいた。

 「折角オランダさんが来てくださったのに」

 スパァン!

 その言葉に、ふすまが勢いよく開いた。

 (あ・・・・)  

 布団の中から明るくなった光の方向を見る。  

 日本が開けたのではない。しかし、日本の意志によって開いた扉の向こうで、驚いた顔の上司とそして・・・オランダが立っていた。

 

 

 

   

 恥ずかしくて、布団から顔が出せない。相手がオランダだと分かったとたんにこの態度というのは、いくら何でも子供のような変わり身の早さだ。  

 上司は、開いた扉をこれ幸いとオランダを中に押し込め去っていってしまった。それでは後はお二人で・・・って、お見合いじゃああるまいしと日本は思う。  

 「元気そうやんな」  

 布団のそばに腰を下ろしたオランダが、静かな声でそう尋ねる。  

 久しぶりのオランダとの逢瀬はうれしい。オランダのことが日本はとても好きだった。彼の持ってくるものも異国の話もすべてが珍しく、心を躍らせる。もちろんそれだけではなく、彼自身のこともだが。  

 けれども、恥ずかしいのとは別に日本には布団から顔を出せない理由があった。  

 「まだ、引きこもっとるんか」  

 ほら、やっぱり。と日本はオランダの声を聞きながらきゅっと眉をしかめた。  

 上司に言われているのかそれとも彼自身が心配してくれているのか、先日も同じことを問われた。外に興味はないのか?ここからでてこないのか、と。  

 「・・・・私には。オランダさんがいます」  

 他に、興味なんかない。与えられたものだけで、十分だ。  

 「だから、いいんです」  

 彼がいればいい。この、見た目に反して世話焼きで優しい偉丈夫がこうして自分のそばにいてくれればそれだけで。  

 「別に、他の人と仲良くしたいなんて・・・」  

 「日本」  

 名を呼ばれた。  

 「お前の国のことぞ。俺を、言い訳にすんな」  

 ぐっと、オランダの厳しい言葉に日本の喉の奥が引きつれたように痛む。  

 「・・・・すみません」  

 ぽそりとつぶやいた言葉は、布団の隙間からかすかに漏れる。ぎゅっと縮こまった布団に、オランダはふっと目を細めた。愛しいような悲しいような顔で。  

  布団の上から、ぽんぽんと頭をたたく。それは日本にとって、酷く優しく悲しい感触だった。  

 「これから、アジアは変わる」  

 布団越しに手を置いたまま、淡々とした声が振ってくる。  

 「自分の身は自分で守らんといけん時代や。今までのように閉じこもってはいられん。力を付けなければ、そこに待っているんは一方的な搾取や」  

 それを、欧州に身を置くオランダだからこその忠告だった。

 「お前も本当は、分かっとるはずや」

 海を越えて聞く話は日本だって知っている。隣の、兄と慕った国も手ひどい痛手をくらった。だから、怖い・・・けれども・・・  

 「俺は・・・お前に生きていて欲しい」  

 彼の額に付いた傷。それが何故なのか、未だに日本は聞けないでいた。  

 「たとえ・・」  

 続けようとした言葉を、オランダはぐっと飲み込む。  

 「オランダさん・・・?」  

 途切れた言葉に不安になり、日本はそろっと布団から顔をだした。  

 「髪が乱れているな。きれいなんやから、ちゃんと整えろ」  

 そう言って伸ばされた手が、日本の髪を優しくすいた。くすぐったくて、日本は目を細める。  

 よく、同じ言葉で風に吹かれた自分の髪を彼はよく直してくれた。  

 けれども、その時と自分を見つめる瞳の色が違うことを日本は感じていた。なぜこんなにも、胸が締め付けられるような悲しい瞳をしているのだろう。  

 「日本」  

 小さく、名を呼ばれる。ふっと顔を上げれば、思った以上の近さでオランダの顔がそこにある。そして・・・  

 「・・・・・っ!」  

 唇に感じたのは柔らかな感触だった。口と口の接触。接吻だ・・とは、疎い日本でも分かる。

 「な・・・・っ!」

 真っ赤になって絶句する日本の心をのぞき込むように、オランダは日本の目を見つめる。

 「こうされたのは、はじめてやな?」

 それは、確認するような言葉だった。

 「あっ・・・・ああああたりまえでしょう!」

 抗議をすれば、満足そうな笑みを浮かべる。強面の彼が目を細め笑う、この瞬間が日本は好きだった。

 もう一度、オランダの手が日本の髪に触れる。

 「世界を見てきい、日本。そしたら・・・この意味もきっと分かる」

 そう語った瞳は、まるで別れのようだった。














 

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捏造蘭さんです。
蘭さんの歴史や何やら特に調べないで滾るパッションだけを頼りにやった。反省はしてるけど後悔はしてない。(←手に負えん)

本家で口調などが出たら、改正するか消すかするかもしれません(笑)
09.12.20

改正しました。
方言難しい・・・・っ!!
滋賀・・・ですよね?
10.05.13