「どぅわぁあああああっ!!!」  

 爆風にあおられ体が吹っ飛ぶ。  

 なんとかソファーの影へと入り込むことに成功はしたが、何の解決にもなってはいない。  

 「なっなっなっなっなっ・・・」  

 数百年、数十年前ならばまだしも、久方ぶりの衝撃に頭の中はパニックだ。  

 俺何かしたか!?と思いはするものの、今のところ思い当たることはない。  

 つか、誰だ!?  

 最近会った相手を思い出そうとするが、ルーイにフェリシアーノ、ローデリヒにエリザベータ・・・エリザか?  

 ふと思い当たった相手を疑うが、しかし近頃はローデリヒにちょっかいをかけた記憶もない。エリザが動くとすれば、あいつに関してのことだけだからな。  

 だとすれば、他に自分と関わりのある相手といえば・・・  

 はた、と頭の中に小さな黒髪が思い浮かぶ。  

 昨日久方ぶりに出会い、知人からいろんな段階を吹っ飛ばして一気に特別な関係になった東洋の島国。神秘の真珠。  

 いや、けれどもまさかだ。  

 別に彼に対し何かしたわけでは・・・  

 どぉぉん!  

 「うぉおうっ!!」  

 考え込みかけたギルベルトの真横に、第二波が着弾する。またも舞い上がった粉塵に顔をしかめた時、その煙の隙間からギルベルトの目に映った物騒な影。

 そして、  

 「覚悟するあるっ!」  

 ぎらりと光ったのは、大振りの太刀。  

 「ぎっ・・・!!」  

 上段から降りおろされたそれを、ギルベルトは反射的に頭上でハシッと受け止めていた。俗に言う真剣白刃取りというやつだ。  

 仕掛けた側は止められた刃にわずかに片眉を上げ、即座に体制を整えるべくとんっと後に飛び距離をとる。  

 「なかなかやるあるな・・・」  

 「なっ・・・おまっ・・・・!」  

 空中で太刀を切り構えを作る赤いチャイナ服がその手に持つのは青龍刀。  

 「我の弟に手を出したらしいあるな」  

 ふわりと一つに縛った長い黒髪が宙を舞う。  

 「あれに手を出すならば、我を越えてからにするよろし!」  

 こちらの言い分も聞きもせずまた切りかかってきた男に、ギルベルトは混乱した頭で逃げ出していた。  

 「逃げるとは卑怯ある!」  

 「逃げるわっ!」  

 丸腰の相手に不意打ちで切りかかってくるのは卑怯ではないというのかと真剣に相手に問いたいが、そんなこと聞き入ってくれる余地はみじんもなさそうだ。  

 「なっ・・・なんで王が・・・っ!」  

 崩れかけた家の中を必死で走りながら、襲いかかってきた予想外の事態の原因をギルベルトは必死で考える。  

 弟・・と言っていた。  

 王の弟って言えばヨンスか・・・菊、のことだろう。菊本人はなにやら否定していた記憶が昔の片隅に引っかかってはいるが、どうやら意見の相違があるらしい。  

 だいたい、手を出したというのならば菊の方だろう。・・・まぁ、まだ一切触ってもいないのだから言いがかりと言うものだが。  

 まるで、生娘の父親のような剣幕に頭が痛くなる。  

 彼の言い分からしてみれば俺の屍を越えていけといいことなのだろうが、こちらが屍にされてはたまったものではない。  

 というよりは、向こうは屍にする気満々なのだろう。気迫どころあれは殺気だ。  

 「じょーだんじゃないっつーの・・っ」  

 自分よりも小さい体が太刀を振り回し家を破壊しながらこちらへと向かってくる様は闘神のようであり到底かなわないかに思えたが、しかし地の利はギルベルトにあった。  

 半壊していようが、なじんだ自分の家である。  

 「どこあるかっ!」  

 とりあえず、逃げきらなければ。  

 物陰に身を寄せ息を整えながら、外へのルートを頭の中で探る。決して不可能ではないそれを即座に組み立て、ギルベルトは外へと走りだそうとした。  

 だが、妙だ。  

 徐々に蘇る戦闘本能が違和感を訴えている。  

 確かに、自分に直接的な攻撃を仕掛けてきたのは王だった。彼の太刀による破壊力は並のものではないということも十分理解している。  

 けれども・・・。  

 第一波、第二波の衝撃。あれは刀での攻撃ではない。ならば、第二波とほぼ同時に王が自分に切りかかってきたということは・・  

 「他にもいんのかよ・・・まさか・・・」  

 「大正解ってとこだな」  

 返ってきた答えに、ぎくりと体が強ばる。  

 すぐ近くで聞こえた声に、ギルベルトはその方向へと勢いよく振り返った。  

 「てめぇ・・・」  

 視線の先にいた顔に、眉根が限界まで引き絞られる。  

 「よぉ、久しぶりだな。ギルベルト」  

 そこにあったのは、凶悪な顔でこちらに銃口を突きつけるアーサーの姿だった。